【分類・分布】
ダツ目サヨリ科サヨリ属の海水魚。ダツ目の魚は、世界で5科38属190種が報告されており、うち、サヨリ科の魚は12属85種が知られている。
日本では本種のサヨリをはじめ、センニンサヨリ、クルメサヨリ、ナンヨウサヨリ、ホシザヨリ、コモチサヨリなど6属13種が棲息していて、一般にサヨリといえば「サヨリ(学名 Hyporhamphus sajori)」のことで、主に釣りの対象になるのもサヨリである。ただし、霞ヶ浦や利根川など、クルメサヨリを釣る地域もある。
サヨリは、琉球列島と小笠原を除く、北海道南部から九州に分布している。
【形態】
細身で流線形のサヨリは、群れを組み、水面下を矢のように走る。その動きと流麗な姿、そして脂肪が少ない淡白な身と美しさ。三拍子揃ったサヨリは、魚界の麗人、美人といわれている。
全長は最大で40㎝ほどで、同じダツ目のサンマとよく似たスマートな細長い体形をしている。下アゴのみが長く突き出しているのがサヨリ科一般の特徴で、この下アゴの先端部は紅をさしたように赤く、美しい色かどうかが鮮度のバロメーターにもなる。上アゴは平らで、上から見ると三角形をしている。
体色は、背部が銀青色で小さなウロコがあり、体側、腹部は銀白色に輝く。上からは海の青さ、下からは太陽光の色にうまく溶け込み、外敵から身を守る保護色となっている。筋肉は半透明で、腹膜は真っ黒。このことからサヨリは「見かけによらず腹黒い人」の代名詞とされることもあるが、これは筋肉が半透明の魚によく見られる現象で、腹腔内に光が透過するのを防ぐ適応と見られる。
下アゴの先端が赤いのがサヨリの特徴。
【生態】
サヨリは、海面すれすれを群れをなして泳ぎ、動物プランクトンを捕食したり、浮遊する海藻の断片を摂食したりする。稚魚や成魚は水面上を飛び跳ねる習性があり、危険が迫ると数回にわたり空中へジャンプし、外敵から逃げる。この習性は近縁のダツにもあり、さらに発達してトビウオ類の滑空飛躍となったと考えられている。
雄・雌とも、満1歳、体調20㎝前後で成熟しだす。地域によって前後するが、産卵期は4~7月で最盛期は5~6月前後。藻場、または流れ藻などのあるところへ十数尾ずつ群れを作って出現し、水面近く、ときには水面を覆う藻の上に体を横たえて産卵する。一回に産む卵の数は、1,000~2,000粒で計6,000~1万3,000粒になる。水温15℃なら約2週間で孵化し、6~8㎜の仔魚が誕生する。
孵化したばかりの仔魚は活発に泳ぎまわる。10日目で体長12㎜になって下アゴが伸びはじめ、25㎜までに成長すると変態は完了する。仔魚はプランクトンや小型甲殻類を食べ、その後はアジモ、甲殻類、水面に落下した昆虫などを食べて成長する。5月頃に生まれたものは、8月に14㎝、10月に18㎝、満1歳で25㎝、9月に30㎝になり、寿命は約2年。
【文化・歴史】
一般に、サヨリという名は、「沢(=岸辺)寄り」に多く集まる魚という意味から名付けられたとされている。
1932~1937年に大槻文彦らが著した国語辞書『大言海』では、「サは、狭長なるをいう。ヨリは、この魚の古名ヨリトのトの略」としている。また、ウロコが体側に縦列で106枚もあるという細鱗の持ち主であることから、細(さい)鱗(り)と呼んだという説もある。いずれも、体の形や群集性からの命名であろう。また、1709年に編纂された『大(やま)和(と)本(ほん)草(ぞう)』には、「サヨリ形小さくして円と長し、上のくとばし短く、下の嘴長がし」とある。これらのことから、サヨリは昔から知られ、親しまれてきた魚であることがわかる。
ダツ目の仲間にサンマがあるが、江戸時代中期以降にはサンマも「サヨリ」と呼ばれ、サンマをサヨリと偽って売られていた。これを区分するために、サヨリを「真サヨリ」と称したという。西日本ではいまでも、サンマを「サヨリ」と呼ぶところがあるという。
日本の至るところに棲息しているサヨリは、地方での呼び名が多彩だ。東京都や神奈川県では、30㎝を超える大物をとくに「カンヌキ」と呼ぶが、これは両開きの扉の戸締まりに使う閂(かんぬき)に喩えたものである。その他、イトのように細長い魚ということから、北九州では「カンノンウオ」、糸きり、網きりの意で、糸や網が切られるほど大漁にとれるということから、和歌山県では「ヤマキリ」。叺(かます)を作るときに使う竹針を「カマス通し」と呼ぶことから、岩手県では「カマストシオ」と呼ばれている。その他、寄り集まる魚を意とする、兵庫県の「ヨロズ」、細長い体型、針魚を意とする新潟県の「ハリヨ」。ササ(=細小)の同義語のスズを意とする、能登・淡路・徳島県の「スズ」など、たくさんの地方名がある。
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