【分類・分布】
スズキ目サバ科マグロ属に分類されるマグロの仲間は、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、ビンナガ、コシナガ、タイセイヨウマグロ、そして、キハダの7種が知られている。分類学的には、クロマグロ、ミナミマグロ、ビンナガの3種、コシナガ、タイセイヨウマグロ、キハダの3種が、それぞれ類縁関係が強いとされており、メバチマグロはグループの中間的な種とされている。
キハダは、太平洋、インド洋、大西洋の暖海や熱帯海域に広く分布している。また、太平洋やインド洋では赤道反海流域に多く見られるが、地中海には棲息しない。日本沿岸では北海道以南で見られるが、伊豆諸島以南の太平洋側から南西諸島にかけて多く、日本海にはまれ。
【形態】
最大で体長2m、体重200㎏に達するキハダは、マグロ属のなかではミナミマグロ、メバチマグロと並ぶ中型種である。ただし、熱帯海域では体長3mに達するとした文献もある。日本近海産は熱帯産よりも小型で、大きくても体長1.5m、体重70㎏ほどである。
体形は、クロマグロやメバチマグロに比べると若干体高が低く、スマートな紡錘形。頭はやや小さく、尻ビレが多少前にあり、尾部は細長い。第2背ビレと尻ビレが著しく伸長し、老成すると、その先端が糸状に伸びてゆく。また、これらのヒレの後方には、9つの離れビレが続き、いずれも鮮やかな黄色を帯びる。地方名も、この色にちなんだものが多い。
体の背部は濃青色、側面は黄金色、腹面は銀白色を呈し、体側に淡色の横縞状の斑紋がある。側線は発達し、胸ビレ上方で湾曲する。目は比較的大きく、若魚ではことに顕著である。口裂は大きく、後方は眼下に達する。
若魚は、体側の後方へ向けて下がる斜めの白い縞模様があり、第2背ビレと尻ビレは短い。他種との区別がつきにくく、とくにメバチマグロの若魚とよく似る。
背ビレや離れビレが黄色みを帯びたキハダ。遊漁でキャッチされるのは、これくらいのサイズが多い
【生態】
分布域の広いキハダの産卵期は、まちまちである。産卵場所は北緯30度~南緯30度の海域で、水温26℃以上が適水温とされている。一度に100万~500万粒を産卵し、2~3日で孵化。仔魚期はプランクトンを捕食するが、稚魚期から魚食性が現れる。
体長数十㎝に達した若年期には、島部や陸に近接した水域に棲息し、表層を群れをつくって遊泳するが、成長に伴い沖合に分布域を広げ、表層や中層を遊泳するようになる。成魚がとくに好むエサは、カタクチイワシやマイワシなどで、イワシ団子に群がるナブラに遭遇することもある。また、大型のキハダはサンマやトビウオなどの中型魚も捕食する。彼らに負けないスピードがある証明だ。
「我々がもっとも好きだったのは、金色のヒレのマグロ(=キハダ)が訪れてきたときに水面下に潜ることだった」と、トール・ヘイエルダールは『コン・ティキ号探検記』でキハダマグロの美しさを賞賛するとともに、キハダが漂流物に着くことも示している。実際、キハダは表層を浮遊する木材などの漂流物に付随遊泳する性質があり、木着き群とよばれる。また、イルカに着く習性もあり、若魚はカツオやメバチマグロと混群を作る。
キハダの成長はマグロ類のなかでは早く、1年で50㎝、2年で90㎝、3年で120㎝、5年で160㎝。寿命は8年ほどといわれている。
なお、マグロは変温動物の魚類だが、その体側筋の体温は水温よりも高く保たれている。エラを通して取り込んだ海水で冷えた動脈血の酸素に、運動熱で高まった静脈血の酸素の熱を与えることで高体温を保っており、この熱交換システムが高速遊泳を可能にしているのだ。その一方で、遊泳を止めると海水中の酸素を取り入れられなくなって窒息死してしまうため、一生泳ぎ続けなければならない。
【文化・歴史】
キハダは、成長にともなって、眼径、胸鰭長、第2背鰭長、尻鰭長などの外部形質にかなりの変化を生じ、種の査定において著しい混乱を招いた種である。現在では、全世界のキハダは1種と考えられているが、1920~1930年頃には、世界のキハダは約7種に分けられていたという。
マグロのなかでももっとも漁獲量が多く、重要な食用魚であるキハダは古くから親しまれてきた。それを物語るように、地方名が多く、じつに豊かである。標準名であるキハダの漢字名は、黄肌(黄鰭)、もしくは木肌。これらはいずれも外見の色を表しており、古くは鰭(ヒレ)を「旗」と称していたことから、「キハタ」が「キハダ」に転じたものと思われる。
市場では「キワダ」が通称で、60㎝ぐらいまでの若魚を「キメジ」と呼ぶ。「キハダマグロ」「キワダ(キワダマグロ)」は別称である。また、「鮪」は「シビ」とも読み、奄美では鬱金(ウコン)色のシビから「ウキシビ」と呼ばれる。老成魚は第2背鰭の先が糸状に伸びていることから、三重・和歌山・宮崎では「イトシビ」。足のことを「ゲソ」や「ゲス」と称することから、静岡では「ゲスナガ」「クズナガ」。眼の大きな魚を「ハツメ」や「メバチ」などと呼び、キハダの眼も大きいことから、大阪・四国では「ハツ」「ホンバツ」。以上のように、地方によってさまざまな呼び名が付いている。
最近では、キハダの真皮から採取したコラーゲンで化粧水が作られている。体内への吸収率が高く、臭いが少ないのが特徴で、アレルギーの心配もほとんどなく、安全性の面でも非常に優れていると女性から注目されている。
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