【分類・分布】
スズキ目ニザダイ科ニザダイ属の海水魚。ニザダイ科は2亜科6属81種からなり、テングハギ属、ナンヨウハギ属、クロハギ属、そして本種が属するニザダイ属などに分類される。ナンヨウハギ、キイロハギ、ニジハギ、ヒレナガハギなど色形が美しいものが多く、食用や釣りの対象というよりは観賞魚として知られている種類が多い。タイと名が付くが、マダイの仲間ではなく、いわゆる「あやかり鯛」の一種。
ニザダイは、日本海側では新潟、太平洋側では宮城県以南の日本各地に棲息。とくに、三宅島など伊豆諸島周辺で多く見られる。また、台湾や朝鮮半島南部など東アジア沿岸の暖海域にも棲息している。熱帯域に棲むものが多いニザダイ科の魚のなかでは、もっとも高緯度に分布する。
【形態】
体型は卵形で著しく側扁し、表面は小さなウロコで覆われてザラザラとしている。短い吻が突き出し、先端に小さな口がある。
体色は灰褐色で、尾ビレの前には4~5個の黒い斑点が並び、そのうち3個はよく目立つ。この部分は鋭い骨状突起となっており、素手で触ると切れてケガをすることがある。幼魚の頃は突起はなく、成長に従って鋭くはっきりとしてくる。このトゲは、ニザダイ科の魚の特徴である。
体長は、最大で約60㎝。かつては80㎝超も釣れたというが、現在では大物の数は減っている。
小さなおちょぼ口が特徴。尾柄部の突起は鋭いので、釣り上げた時など手の怪我に注意!
【生態】
タイの名は付いているが、どちらかというとカワハギの仲間に近く、実際、料理するときには皮を剥いで下ごしらえする。また、小さなおちょぼ口で巧みにエサ取りをする点も、カワハギと共通している。
沿岸部の岩礁域に棲息し、成魚は水深10m前後で群れをつくる。主に石灰藻(石灰質を多量に沈着する藻類)などの海藻類を食べるが、甲殻類、多毛類なども捕食する雑食性である。
産卵は春頃とされ、卵は球形で水面を漂った後、孵化する。幼魚はアクロヌルス幼生と呼ばれ、体長は2㎝以下。体色は、ほぼ透明でウロコはまだなく、内臓部分は銀白色をしている。背ビレと尻ビレの棘が長く伸びているのが特徴だ。初夏頃、潮だまりなどで姿を見ることもあるが、成長するにつれて次第に深い場所へ移動し、やがて岩礁域に定着する。
【文化・歴史】
ニザダイの別名としてよく知られるのは、サンノジ・サンノジダイ(関東地方、紀伊地方、四国地方)で、これは尾の付け根の3個の斑点を漢字の「三」と見立てて付いた名である。ほかに、クサンボウ(千葉県)、おならを意味するコスベ(熊本県)など磯臭さからきた名前、ニザハゲ(三重県)、クロハゲ(関西地方、四国地方)、オキハゲ(広島県)、コームキ(長崎県)、カワハギ(鹿児島県)など、調理時に皮を剥ぐことからきた名前も多い。
英名はSurgeonfishといい、外科医の魚という意味で、尾柄部の突起の鋭さが外科手術の道具を思わせることからきたものである。Scalpel sawtail という英名もあるが、これもscalpelは手術などに使うメスを、sawtailはノコギリのような尾を意味し、やはり、尾柄部の突起の鋭さから付いた名である。
正式和名の「ニザ」は、ニイセ・ニセ=新背がなまったもので、新たに大人の仲間入りをした若い人のことを指す。または「青二才」のニサイがなまったものともいわれ、どちらにしても「タイの仲間のはしくれ」的な意味で付いた名だと思われる。
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