【分類・分布】
ムツは、スズキ目ムツ科ムツ属に分類される海水魚。アカムツ、ハチジョウアカムツ、バラムツ、アブラソコムツなど、ムツとは分類が異なっていても、よく似た深海性の大型肉食魚の和名にムツが付く場合がある。また、ムツに似なくても、和名や地方名にムツが付く魚も多い。
しかし、正式にムツ科に属する魚は、全世界に1属4種しかいない。うち、日本近海に棲息しているのは、ムツとクロムツの2種だけだ。両者は外見が酷似しており、専門家でも見分けがつかないほどで、市場でも区別されることはほとんどなくホンムツとかクロムツと呼ばれ混同されている。
ムツの棲息域は、インド太平洋とアフリカ南部の大西洋で、日本では北海道以南から鳥島まで見られる。一方、クロムツは北海道以南から駿河湾、新島にかけての太平洋沿岸域と、ムツよりも北に偏っている。
【形態】
体型は整った紡錘型で、目と口が大きく発達する。両アゴには多数の鋭い歯が1列に並ぶ。舌上と咽頭骨上にも小犬歯が密生している。エラブタには2対の棘を持つ。背ビレはふたつに分かれ、胸ビレは細長く、尾ビレは深く2叉する。体は、比較的大きなウロコで覆われている。このウロコは、幼魚期には非常に剥がれやすいが、成魚になると剥がれにくくなる。
幼魚の体色は、背部が赤褐色ないし黄褐色だが、成魚は全体的に紫褐色となり、腹部は銀灰色、尾ビレは黄褐色で縁辺は淡黒色を帯びる。また、幼魚の口の中は白いが、成魚は黒い。なお、近縁種のクロムツは全身が紫がかった黒褐色であることから区別できるが、幼若魚期の体色は両種ともほぼ一緒であるため見分けることは困難だ。
ムツは口内に鋭い歯が並んでいる。さばく際などに手に刺したりしないように気をつけよう
【生態】
産卵は初冬~早春に沿岸域で行われ、分離浮遊卵を産む。孵化した稚魚は、表層域で動物性プランクトンを食べながら浮遊生活を送る。体長4~5㎝になると、イワシ類の仔魚などの魚類を捕食し始め、5㎝以上になると完全な魚食性となり、18㎝前後まではキビナゴを主としたイワシ類を主食として成長する。そして、沿岸の岩礁域で群れを作り始める。秋には体長20㎝ほどの若魚となり、沖合いの深みへと落ちてゆくと同時に、明るかった体色は棲む環境に伴って暗い色へ変化する。
満2年で水深100m付近に、体長40㎝ほどになる3年を過ぎると、さらに深海へと移る。成魚は水深200~500mほどの起伏に富んだ岩礁域や底層で、小魚やイカ、エビ類などを捕らえて1m以上に育つ。
【文化・歴史】
ムツの口は大きく、エサを一気に飲み込むので、通常のJ字タイプのハリでは口腔の奥深くに刺さってしまう。このため、上下のアゴに生え揃った鋭い歯によって、ハリスは簡単に切られてしまう。いったんは飲み込まれても、歯の外側の唇に刺さるハリが望ましいということで考案されたのが「ムツバリ」である。ハリ先が内側に曲がっているのが特徴で、一度ハリ掛かりすると外れにくいことから「地獄バリ」、または、寝ていても向こうアワセで魚が掛かることから「ネムリバリ」とも呼ばれている。
ムツというのは、「味が濃い」「しつこい」「脂っこい」などという四国地方の方言「ムツコイ」に由来するといわれている。現在は、脂の乗った魚を高く評価するが、昔はウマミが味の評価の基準であり、脂はマイナス材料だったようで、このような名前が付いたとされる。
また、仙台での別名である「ロクノウオ(六魚)」については、江戸時代の仙台伊達藩主が陸奥守(むつのかみ)であったため、主君を呼び捨てにすることをはばかり、「ムツ」を「六」と置き換え名付けられた。
そのほかムツメ(神奈川県)、オキムツ(富山県)、モツ(高知県)、クジラオトシ(福岡県)、メバリ(長崎県)、ムツゴロウ(鹿児島県)、クルマチ(沖縄県)などの地方名がある。
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