【分類・分布】
「ムロアジ」とは、狭義では正式和名・ムロアジのみを指すが、オアカムロ、マルアジ、モロ、クサヤモロ、アカアジなどを含めたムロアジ属の総称にもなっている。
ムロアジ属はマアジよりも南方系で、世界の熱帯~温帯海域に約10種類が棲息している。そのなかでムロアジは、インド洋・太平洋の熱帯~温帯海域と、太平洋のアフリカ南部沿岸、日本では本州南部以南に広く分布している。
【形態】
ムロアジ属の特徴として、小離鰭(しょうりき)と呼ばれる、尻ビレの後ろに分離した小さなヒレがあることが挙げられる。また、ほかのアジ科の魚と比べると、体が細長い円筒形をしており、側線上の稜鱗(ゼイゴ)が、体の後半の直線部(側線直線部の3/4ほど)にしかない。
英名で「Amberstripe scad」(amber=琥珀色 stripe=縞 scad=ムロアジ類の英名)というように、体側に金色の細い縦帯があるのが特徴のひとつだが、この帯は死ぬと消えてしまう。全長50㎝ほどに成長し、ムロアジ属のなかでは比較的大型の種である。
同属のオアカムロは、その名の通りムロアジよりも尾ビレが全体的に赤く、こちらも全長50㎝ほどになる。くさやの素材として珍重されるクサヤモロも本種に似るが、稜鱗が側線直線部の1/2程度であることと、口先がやや前方に突き出ていること、また、尾ビレの褐色が強いことで区別できる。
マアジより体高が低くて、細長いのがムロアジの特徴
【生態】
ムロアジは外洋に面した沿岸部や島嶼の周辺に棲息し、群れで生活して動物プランクトンなどを獲って成長する。大きくなるに従って、甲殻類や頭足類、キビナゴなどの小魚も捕食するようになる。潮通しのよい場所を好み、産卵期に接岸すると、防波堤のまわりなどでも群れの姿を見ることができる。
マルアジ以外のムロアジ属の魚は、巻き網などによる漁獲の際に明確に分類されないこともあるため、生態には不明な点が多いが、5~6月に産卵期を迎え、沿岸の浅場に群れが寄ってくると考えられている。
【文化・歴史】
ムロアジ属の魚は、くさやの材料としてよく知られている。伊豆諸島の八丈島や新島では、くさや作りが300年以上前から行われており、島の特産品となっている。ほかに大島、三宅島、式根島、神津島、さらに伊豆半島の伊東、鹿児島県枕崎、小笠原諸島の父島、母島でも、くさや作りが行われている。
江戸時代、伊豆諸島では塩が貴重品であった。魚の干物を作る際にも塩を節約しなければならず、塩水を何度も繰り返し使用したことから、くさやを浸けるくさや汁が生まれた。くさやは一般的な干物より保存性がよいが、これはくさや汁の微生物群が、腐敗細菌や食中毒の原因となる菌の浸入を防ぐため。
ムロアジという名前の由来には、諸説あるものの、このくさや汁を魚室(むろ)と呼ぶことから、ムロアジの名が付いたともいわれている。
また、播州(兵庫県)室の津、和歌山県牟婁でよく獲れたことが由来だという説もある。
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