【分類・分布】
カジキは、スズキ目カジキ亜目に分類される魚の総称である。温暖な海を高速で遊泳する大型肉食魚で、いずれも上アゴが剣のように長く鋭く伸びているのが特徴だ。食用やトローリングによるスポーツフィッシングの対象魚としても重要な魚種のひとつで、生態や肉質がマグロに似ることから「カジキマグロ」という俗称もあるが、マグロとは異なる分類群である。
カジキ亜目は、メカジキ科とマカジキ科の2科に分類され、マカジキはマカジキ科マカジキ属の魚である。
日本近海には、マカジキのほか、メカジキ、バショウカジキ、フウライカジキ、シロカジキ、クロカジキの計6種のカジキの仲間が棲息する。
本種はカジキ類の代表種で、太平洋やインド洋の熱帯・温帯海域に広く棲息している。高密度域は北緯20~30度、および、南緯20~30度、さらに、メキシコからペルーにかけて。太平洋全体でみると馬蹄形の分布をしている。日本近海では、北海道・朝鮮半島以南で見られるが、太平洋側に多く、日本海側では少ない。
【形態】
成長は、眼窩長(目の後端からの長さ)で1歳で64㎝、3歳で150㎝、5歳で200㎝に達するといわれ、寿命は10年程度と推定されている。最大体長は、眼窩長で290㎝に達する。
体型は前後に細長く、側扁度がかなり大きい。上アゴは細長く、前方に伸び、尖った吻を形成する。ウロコは密で、その先端は鋭い。両アゴと口蓋骨に小さな鑑状歯が存在する。側線は胸ビレあたりで湾曲し、そこから真っ直ぐに尾部へ続いている。頭は大きく、第1背ビレ起部から眼前部にいたる眼部外縁は隆起している。
背側には鮮やかなコバルト色の横縞があり、腹側は銀白色。第1背ビレは長く伸び、腹ビレはヒモ状になっている。強大な尾ビレは深く二叉し、尾柄部付近の両側にそれぞれ2条ずつ隆起線がある。全体の大きさの割にヒレが小さいのが特徴だ。
クロカジキに似るが、クロカジキよりウロコが細かいこと、体が白っぽく平たいこと、また、吻が長いことなどで区別される。
【生態】
マカジキの最適水温は、21~23℃。活動する水深は、40m以浅の水温躍層よりも上層である。
全長160㎝前後に成長すると、50%程度の個体が成熟すると推定されている。これは年齢にすると3~4歳に相当する。産卵場所は明らかではないが、稚仔魚の出現から西部太平洋の南北それぞれ緯度20°前後の海域と推定されている。産卵期は北太平洋では4~6月頃、南太平洋では10~12月頃と考えられ、年に1回、1,000万粒以上も産卵する。
くわしい回遊ルートは解明されていないが、日本近海では、春~夏に北上し、秋~冬に南下しているとみられている。数匹で連れ立って泳ぐことがあるが、大きな群れにはならない。
仔稚魚期の主なエサは浮遊性甲殻類だが、成長とともに魚食性の傾向が強くなる。摂食しやすい生物をあまり選択せずに捕食する、いわゆる無選択摂餌をするマカジキだが、イカ類の豊富な海域ではこれを選択的に食べる。トローリングでも、イカを模したルアーが多用される。回遊魚もカジキの格好のエサである。研究によると、個体数で卓越していたのは、カタクチイワシやマイワシのイワシ類と、ゴマサバとマサバのサバ類である。小型のカツオ、マグロ類を食べることもある。摂餌活動は朝方に活発だが、マカジキは日中にも摂餌活動が活発になる時間帯があると推測されている。
【文化・歴史】
カジキは「梶木通」「舵木通」の略とされる。すなわち、舵を取る木や船の底になる木(梶木)をも貫く、鋭く丈夫な吻を持つ魚であるという意味だ。
伝統的な漁法として、突きん棒漁が知られている。これは、船の舳に極端に突き出した突き台から銛を打つ勇壮な漁だ。波間に背ビレを立てて泳ぐカジキを見つけると、船を高速で走らせ、長い銛で突き取る。突きん棒船で獲られたマカジキの味は最高といわれる。
突きん棒漁は、中世末期に千葉県の鋸南町勝山、千倉町七浦などの沖合いを漁場として行われてきた。大正時代に船が動力化されると遠方まで出かけるようになり、発展。銛の形などから捕鯨と深い関係があると考えられている。近年はカジキ類の漁獲量が減っており、この漁を専門に行っている船はほとんどない。
古来、日本の食文化になじみが深く、カジキのなかでもっとも美味とされているマカジキは、最高級品に位置づけられている。メバチマグロやキハダなどの大衆マグロを超える高値が付くことも珍しくない。とくに晩秋~冬場は、上質なマグロ類が少なくなるために注目され、50㎏以上の大型マカジキの価格は、すし店向けの上級メバチマグロと並ぶ1㎏当たり1,800円前後の高値で取引されるという。
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