【分類・分布】
マゴチはカサゴ目コチ科コチ属の海水魚で、仲間にはメゴチ、ワニゴチ、オニゴチ、イネゴチ、アカバゴチ、ウスバゴチ、アサネゴチなどがおり、10種類程度が日本に棲息する。本種は日本近海に分布するコチのなかでは大型の種類で、美味な食用魚でもある。
シロギス釣りの外道などで釣れるネズミゴチは、色や姿形はマゴチを小さくしたようだが、スズキ目ネズッポ科ネズッポ属に分類されるまったくの別種。
マゴチは暖水性の魚で、西太平洋からインド洋の温帯や熱帯域まで広く分布している。日本では、日本海側は新潟県以南、太平洋側は宮城県以南に分布する。
【形態】
全長は成魚で50㎝ほどがアベレージだが、70㎝超の大型個体もまれに漁獲される。
体は細長く、背腹軸の方向に低くなり、左右の方向に幅広くなった体形をしている。こうした形を魚類学では縦扁と呼び、アンコウやエイの仲間などにも見られる。海底で生活するのに適した体形で、水底で休息するとき体が安定して、上方の捕食者に発見されにくく、エサにする小動物からも隠れて待ち伏せをしやすい。ちなみに、ヒラメやカレイ類も上下に押しつぶされた体形に見えるが、こちらは縦扁ではなく、マダイなどと同様に側扁(体の左右から押しつぶしたように平たいこと)した体が、さらに横に寝ている「異体類」と呼ばれる特異な体形である。
マゴチの頭部はシャベルのように左右に平たいことから、英語でのコチ類の総称は Flathead(平たい頭)となっている。左右に張った頬の前鰓蓋骨には2本の硬いトゲを持ち、口は大きく、下アゴが上アゴより前に突き出ている。目は小さく、下アゴの先端は丸い。胸ビレに小さな褐色の斑点がある。腹側は白いが、背中側は黄褐色~褐色をしていて、細かいまだら模様がある。ただし、海底の砂泥の色に合わせて、体色をある程度変えることもできる。浮き袋はなく、遊泳は苦手である。
ボート釣りで釣れたマゴチ。平たい頭が特徴。
【生態】
沿岸の水深50mまでの砂泥地に棲息する。夏は海岸近くに寄ってきて、砂浜海岸や干潟の海中などでも姿を見ることができ、河口などの汽水域にもよく侵入するが、冬はやや深場に移る。
海底の砂底に腹を着けて生活する底棲魚で、あまり動き回らずに平たい体と褐色の体色で砂底に擬態し、敵や獲物の目をあざむく。砂底に浅く潜ることもできるので、ぱっと見ただけでは砂底と見分けがつかない。眼の虹彩皮膜も、目立ちやすい眼の存在をカモフラージュするためと考えられている。食性は肉食性で、エビ、小型のタコやイカ、ハゼやキスなどを大きな口で捕食する。
日本近海では4~7月に接岸し、浅場の砂場で産卵する。卵は直径0.9㎜前後の球形の分離浮性卵で、25℃前後の水温では24時間で1.8㎜ほどの稚魚が孵化する。体長12㎝前後までは、沿岸浅場の表層域で浮遊生活を送り、やがて底棲生活に移る。1歳で全長13㎝、2歳で23㎝、3歳で32㎝、5歳で45㎝、7歳で54㎝ほどになる。
コチ科の魚類は、雄性先熟型の性転換を行うことが知られている。具体的には、生まれてから2歳くらいまではオスばかりだが、全長50㎝を超えるとすべてメスになるといわれる。しかし分類学的な研究は進んでおらず、生態学的にはまだまだ謎が多い。
【文化・歴史】
マゴチは、コチのなかのコチ、コチの王であることから、他の種と分けるために「マゴチ」「ホンゴチ」と呼ばれている。しかし長い間、魚類図鑑では「コチ」という標準和名が採用されてきた。本種が「マゴチ」の標準和名を付けられたのは、1993年のことだ。同年発行の『日本産魚類検索』(東海大学出版会)で、暫定的にマゴチとヨシノゴチに分けられ、標準和名がマゴチに変えられたのである。
コチの名の由来には、いくつかの説がある。『大言海』には、「昔の公家などが正装した時に手に持つ細長い『手板』を『笏(こつ)』といい、体形がこの『笏』に似ているところから訛ってついた」とある。または、もっと単純に、骨が硬いことから「骨(こつ)」がコチに変化したという説。さらに、漢字の「鯒」は、コチがエサを砂中から飛び跳ねて捕食するということから、魚篇に「踊」を組み合わせたという説。鋭いトゲを持っていることから、魚篇に「痛」を組み合わせたという説などがある。
地方名には、クロゴチ(西日本)、ゴチゴロウ、ゴチゴロ、ゼニゴチ(長崎県)、スゴチ(愛媛県)などがある。
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