【分類・分布】
スズキ目ベラ科キュウセン属に分類される。ベラ科の仲間は暖海を好み、世界中の熱帯から温帯にかけて約500種が広く分布し、日本近海でも約130種が棲息する。
本種は、そのなかでも比較的低温に強い種類で、温帯域に分布できる数少ないベラの一種である。主な分布域は、北海道南部以南、南西諸島以外の日本各地、および東シナ海、南シナ海、朝鮮半島など。
【形態】
体型は細長く側扁し、比較的大きな円鱗に覆われている。背ビレは、エラの後端周辺から尾ビレの付け根までと長い。突き出した口には牙顎歯や咽頭歯が発達し、硬いエサも食べられるようになっている。
雄は体長30㎝前後に成長し、体色は鮮やかな黄緑色。胸ビレの後方に、境界の不明瞭な大きな濃青色の斑がひとつあるのが特徴だ。
雌は体長約20㎝ほどで、体色は黄褐色。背面の中央と体側に黒くて太い縦線が入り、黒線の内外に点線状の赤い縦線がある。
青ベラと呼ばれる雄は、体長9〜15cm程度に成長した雌が性転換した二次雄。
赤ベラと呼ばれる雌(もしくは一次雄)。
【生態】
沿岸部、内湾の岩礁の点在する砂礫底や砂底に棲息する。昼行性で、海底付近や海藻の間を遊泳しながら甲殻類、貝類、多毛類などを捕食し、夜間は砂に潜って眠る。また、冬期に水温が13~15℃まで下がると砂に潜って冬眠し、春に再び15℃になると活動を再開する。
性転換はベラの仲間の特徴のひとつであるが、キュウセンも雌の一部が成長すると雄に性転換し、色合いが変化する。雌と雄の色形が非常に異なっているため、雌は「赤ベラ」、雄は「青ベラ」とも呼ばれ、別種と思われていたこともあった。
この性転換した雄を二次雄と呼び、二次雄は複数の雌と産卵活動を行う。ところが、最初から雄として生まれる個体もおり、こちらは一次雄と呼ばれる。そして、一次雄の姿形は、雌とまったく同じである。つまり、その外見だけでは雄と雌を判別できないことになる。
そこで現在の学術書では、一次雄のことをイニシャルフェイズ=Initial Phase(IP)、二次雄をターミナルフェイズ=Terminal Phase(TP)と表記するようになっている。この小型の一次雄は、雌と一緒になって大型の二次雄の縄張りの中で生活し、その産卵行動に紛れて自分の精子をかけて子孫を残すという行動も報告されている。
産卵期は6月下旬~9月頃で、地方によって差がある。砂地に雌が産卵床を作って産卵した後、雄が放精して卵を砂で覆う。孵化後、1年で体長約7㎝、2年で10㎝、3年で15㎝ほどに成長する。
【文化・歴史】
キュウセンという名は、雌の体側の縦線の数が9本あることに由来し、漢字でも「九線」と書く。また、「九仙」「求仙」などと書く場合もある。
関東では、ベラの仲間であるササノハベラやニシキベラなどと一緒に、単にベラと呼ばれることも多い。
瀬戸内地方では「ギザミ」と呼ぶことが多く、とくに雄を「青ギザミ」、雌を「赤ギザミ」と呼び分けることもある。また、その鮮やかな色合いが遊女の着物を連想させることから、愛知県などでは「オジョロ(お女郎)」と呼ばれる。
英名ではMulticolor fin rainbowfish で、その鮮やかな体色を現すmulticolorfin=多色なヒレの、rainbowfish=虹色の魚、の意味である。
ニシキベラ。キュウセンの雄と似ているがキュウセンより体色が濃く、腹部が青い。
キュウセンと並んで磯でよく釣れるササノハベラ(正式名・ホシササノハベラ)。
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