【分類・分布】
「マグロ」とは、主にスズキ目サバ科マグロ属の魚類の総称である。カジキマグロ(クロカジキを初めとするカジキ類の俗称)やイソマグロは和名にマグロを含むが、学術上はマグロ属ではなく、通俗名(梶木鮪、磯鮪、など)を引き継いだものだ。
マグロ類は7種が知られている。そのなかで、クロマグロ、ミナミマグロ(インドマグロ)、ビンナガ、メバチ、キハダの5種は、太平洋・インド洋・大西洋に分布する世界共通種で、コシナガはインド洋~西太平洋、タイセイヨウマグロは西大西洋のみに分布する。
そして、この7種のなかで、もっとも大きく育ち、市場性が高く、寿司ネタや刺身などでなじみ深いのが本種・クロマグロである。なお、分類上では、大西洋産のタイセイヨウクロマグロと同種、またはタイセイヨウクロマグロの亜種とする見解もある。
クロマグロの主な分布域は、北半球の海域で、日本の沿岸を含む温帯~亜寒帯の一部にかけて棲息する。北太平洋では、分布の北縁は南千島~カナダ南部沿海、北大西洋ではニューファンドランド~ノルウェー沿海にかけてとなっている。
【形態】
成魚の全長は3~4m・体重800㎏以上に達する。体型は太短い紡錘形で、横断面は上下方向にわずかに長い楕円形をしている。体表には小さなウロコがあるが、目の後ろ・胸ビレ周辺・側線部は大きな硬いウロコで覆われ、「胸甲部」と呼ばれている。
胴体と尾をつなぐ尾柄部は細く、高速で泳ぐときには胸ビレ、第1背ビレ、腹ビレは鰭収納溝と呼ばれる溝に畳み込まれる。また、広く二股に分かれた尾ビレに背骨の端がしっかりとつき、泳ぐときに大きな推進力を得られるようになっている。
体色は、背中側が濃紺、体側~腹部にかけて銀灰色。また、幼魚期は体側に白い斑点と横縞模様が10~20条並んでおり、この模様が、幼魚の地方名「ヨコワ」の由来だ。
クロマグロの皮膚の下には、細い動脈と静脈が平行に隣接した「奇網」と呼ばれる対向流血管系があり、遊泳時に血合筋の収縮で発生した熱は、静脈から動脈に伝わり、エラから逃げないようになっている。また、魚の多くが体表近くにしか血合筋(表層血合筋)を持たないのに対し、マグロ類は「深部血合筋」という、体の深いところにある血合筋を持っており、これも体温を保つためにひと役買っている。これらの仕組みで体温を高く保つことができ、体温を海水温より高く保ち、活発な生命活動ができるのだ。
マグロ類は、エラに水を送り込む仕組みをもっていないので、静止すると酸欠で死んでしまう。このため、つねに泳ぎ回って水流をエラに送り込んでいるが、圧力差を利用してエラに海水を通すこの方法は、航空機のジェットエンジンの空気取り入れと同様の仕組みで「ラムジェット換水法」と呼ばれる。
【生態】
外洋の表層・温帯海域に広く分布するクロマグロは、同じくらいの大きさの個体が集まって群れをなし、高速で回遊する。
食性は肉食で、イワシ、ボラ、サバ、トビウオなどの小~中型魚を積極的に捕食する。また、成長とともにイカ類への依存度が高くなり、夜間はイカを捕食していることが多い。
太平洋のクロマグロの産卵場は、伊豆諸島以西~フィリピン近海の日本の南部海域。ここで生まれたクロマグロが、北半球の太平洋を大回遊している。分布域が広い割には産卵場が限られ、成長後に再び産卵場に帰る「産卵回帰」の性格が強いのが本種の特徴だ。
産卵は4月下旬に始まり、5~6月が最盛期で7月上旬に終わる。魚の大きさにもよるが、一尾の産卵数は100万~1,000万粒の単位である。卵は、直径1㎜の浮遊卵で、受精後ほぼ一昼夜で孵化する。孵化仔魚は約3㎜で、仔魚期はプランクトンを捕食する。仔稚魚は、頭部や口裂が大きいのが特徴で、稚魚期から魚食性が現れ、幼期の成長が早い。
孵化後1年で体長50㎝、体重3㎏ほどになるが、これくらいまでは日本沿岸を夏に北上し、冬に南下するという季節回遊をしているとみられる。その後は、北西太平洋を大きく時計回りに回遊したり、一部は太平洋を横断したりして、カリフォルニア沿岸で南北の季節回遊を行う。そして6~7歳になって成熟すると、南方海域の産卵場に回帰する。寿命は長く、大西洋のクロマグロでは20歳を超えるものもあるという。
【文化・歴史】
我が国におけるマグロとの関わりの歴史は非常に古く、縄文時代の貝塚からマグロの骨が発見されている。
712年に成立した日本最古の歴史書である『古事記』の中には、「アユ」「タヒ」「シビ」「ワニ」「スズキ」の5種の魚名が記されている。この、「シビ」とはマグロのことである。現在でもシビという呼び名はよく使われるが、もともと「マグロ」は東日本の呼び名であり、古来は「シビ」と呼ばれたのである。
江戸時代になると、日本沿海で獲れたマグロをそのまま捌き、ヅケにして食べていたとされる。現在では、脂の乗ったトロが珍重されているが、元来、日本人はあまり脂を好まず、昭和の初め頃まではトロの部分はアラとして扱われ、焼いたり煮たりして脂を落としてから食べていた。しかし、高度成長期になり、食文化の西欧化とともに、脂っこい食事が好まれるようになると、トロの部分がもてはやされるようになった。
地方名には、「ホンマグロ」「シビ」「クロシビ(各地)」「ハツ(高知)」などがある。また、とくに幼魚を指す地方名として「ヨコ」「ヨコワ(近畿・四国)」「メジ(中部・関東)」「ヨコカワ」「ヒッサゲ」などがある。
長年、困難とされてきたクロマグロの完全養殖が、近年成功し、既に商品化されている(完全養殖とは、生け簀で生まれ育った魚が再び産卵すること)。
絶滅の恐れがあるとされるクロマグロの資源保護につながるものとして、期待されている。
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