【分類・分布】
タイ科クロダイ属の海水魚。北海道南部以南の本州、四国、九州各地に分布する。奄美以南の南西諸島では本種は見られないものの、ミナミクロダイやナンヨウチヌ、オキナワチヌなどが棲息する。また、キチヌ(キビレ)やヘダイは主に西日本に分布しているが、関東エリアでも釣ることができる。なお、関西から九州エリアでは、本種を「チヌ」と呼ぶ。
【形態】
体高のある典型的なタイ型の体形をしており、マダイよりも口吻が多少前方に突き出している。アゴの前方には上下それぞれ6本の犬歯状歯があり、その内側には3~5列の臼歯状歯列が並んでいる。
体色はシルバーグレーに輝き、背中やヒレは黒灰色、エラブタの上部に黒斑があるのが特徴。キチヌとは、尾ビレの下縁や腹ビレが黄色いことや目がやや小さくクロダイより前のほうにあることなどで区別できる。体長は3歳で25㎝前後、最大では60㎝以上に達する。
いぶし銀のような魚体と、釣り味の良さから、海釣りのターゲットでもトップを争う人気魚だ
【生態】
沿岸の水深約50mまでの比較的浅い岩礁エリア、および砂泥底の海域に棲息する。また、エサを求めて汽水域や河川内にまで入り込む個体も多い。全国各地の堤防や磯などで釣れ、多少汚れた水質でも棲息するため、都市近郊の釣り場も多い。
悪食の魚として知られ、エビやカニ、貝類、小魚などを丈夫な歯で噛み砕いて捕食する。また、クロダイは雑食性なので、釣りエサにはトウモロコシやスイカなども使われることもある。環境変化に対する適応能力に優れ、5~30度という幅広い水温で生存が可能。エサを捕食する適水温も13~23度なので、年間を通して釣ることができる。
産卵期は春~初夏。内湾の浅場で産み落とされた分離浮性の卵は、水温17度の場合で65~75時間後に孵化する。クロダイは成長とともに性転換する魚で、通常は生後2年前後まではすべてがオスで、2~3歳の雌雄同体の時期を経てから、生後4年以降に大部分がメスになる。
寿命は10歳以上、ときには20歳にもおよぶといわれている。釣り人の間では、50㎝超の大物を敬意を込めて“年なし”と呼ぶ。
【文化・歴史】
日本各地の縄文遺跡からクロダイの骨の化石が多数出土されており、クロダイは古くから日本人に親しまれてきた魚であることが推測できる。
関西でクロダイをチヌと呼ぶのは、古来、大阪湾を「茅渟海(ちぬのうみ)」と呼び、ここにクロダイが数多く棲息していたためだとされている。さらに、紀州~房総では、小型のクロダイを“カイズ”と呼ぶが、これは三重県海津周辺での捕獲量が多いためにつけられた名とされる。
クロダイは全国各地に分布しているが、とくに瀬戸内海での魚影が濃く、広島湾だけで国内の20%ものクロダイが水揚げされている。
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