【分類・分布】
シマイサキ科コトヒキ属に分類される。シマイサキ科は16属48種が認められており、インド洋から西部太平洋地域にかけて分布し、河口などの沿岸近くの浅海で生活する種が多い。また、汽水域から淡水に進入することもしばしばある。
『日本産魚類検索・第二版』(2000)によると、日本産のシマイサキ科魚類は、コトヒキ属のコトヒキ、ヒメコトヒキ、ヨスジシマイサキ属のヨスジシマイサキ、シマイサキ属のシマイサキ、ヨコシマイサキ属のヨコシマイサキ・ニセシマイサキ・シミズシマイサキの7種が確認されている。このうち、ヨコシマイサキ、ニセシマイサキ、シミズシマイサキの3種は、いずれも沖縄県の西表島でしか採集されていない。
本種は、本州関東地方以南、南西諸島、南シナ海、台湾、東南アジアに分布している。
【形態】
通常は、全長30㎝くらいまでのものが多いが、全日本サーフの日本記録では、1994年8月7日に、高知県土佐清水市の三崎で全長50.1㎝が釣れた記録がある。
体の側面は楕円形でやや側扁する。吻は丸く、上部は緩く湾曲する。エラブタの後縁には1本の強い棘がある。尾ビレの後縁は浅く湾入して先端は丸く、黒色縦帯が入っている。
体色は淡黄褐色を帯びた灰青色で、腹部は銀白色をしており、弓形の黒色縦帯が3条並んでいるのが特徴。この縦帯は途中で途切れたり、上下でつながっていたりと、個体によってしばしば変異が見られる。
姿形が酷似しているシマイサキやヒメコトヒキと混同されがちだが、体側にある黒色縦帯で判別することが可能だ。先述したように、本種の黒色縦帯は弓形に湾曲しているのに対し、シマイサキとヒメコトヒキのそれはほぼ直線である。なお、ヒメコトヒキは、全長20㎝程度までにしか成長しない小型種であり、本種よりも南日本に多く棲息している。
【生態】
産卵期は夏。生まれた仔魚は、沿岸のごく浅いところで成長し、全長3㎝くらいになると河口に集まる。内湾、沿岸の浅所、河口域が主な棲息場で、とくに全長14㎝以下の幼稚魚までは河口の汽水域に多く見られる。動物食性で、底棲の小動物、小魚、甲殻類などを捕食する。
コトヒキは、浮き袋を使ってグゥグゥという鳴き声を出すことが知られている。浮き袋に「発音筋」と呼ばれる滑らかな筋肉が付着しており、この筋肉の振動で浮き袋が増幅されて音が出る。近縁種のシマイサキも、エサを探しているときや縄張り行動、産卵期のときに鳴くとされており、現在のところはくわしい研究がなされていないものの、本種が鳴くのもこれと同様の理由と考えられている。
【文化・歴史】
コトヒキという名は、鳴き声が琴の音に似ていることに由来する高知の地方名が標準和名になったとされている。また、尾ビレの模様が矢の弓の弦を受ける矢筈(やはず)に似ていることから、ヤガタイサキとも呼ばれている。その他の地方名として、イノコ(下関)、クワガナー(沖縄)、チョオダイ(江ノ島)、ジンナラ(伊豆伊東)、スミシロ・タルコ(和歌山)などがある。
なお、コトヒキは美しい模様を持つため、観賞用に飼育されることも多い。
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