【分類・分布】
イシダイ科はイシダイ属のみで構成され、世界には7種を数えるが、日本近海に棲息しているのは、本種とイシダイの2種のみだ。
形態、生態ともにイシダイとよく似ていて、分布域も重複するが、本種はイシダイよりも南方系の魚とされていて、太平洋岸では房総半島以南、日本海側では島根県以南の南日本~朝鮮半島南部~南シナ海まで、暖流の影響が強い海域に分布する。イシダイと同様、食用や釣りの対象魚として人気が高い。
【形態】
体型は側扁して体高が広く、頭部は低い。頑丈な尾柄に続く尾ビレ後縁はやや内側に湾入する。
歯は、アゴの骨の上に重なるように集まり、オウムのようなくちばし状になっている。歯の間隙(かんげき)は骨質の石灰質層で埋まっている。この歯は「融合歯」と呼ばれ、非常に強力。
体形などの形態的な特徴、棲息場所や食性などの生態的特徴がイシダイと非常によく似ているが、イシダイは、背ビレ11~12棘17~18軟条、尻ビレ3棘12~13軟条で、体に黒い横縞模様が見えるのに対して、イシガキダイは、背ビレ12棘15~16軟条、尻ビレ3棘13軟条。
イシダイとの最大の違いは、灰白色の地に大小の黒褐色斑紋で覆われた独特の模様だ。
斑紋は鮮明で、ヒレにもくっきりと及んでいる。イシガキダイという名は、この模様が石垣を連想させることに由来する。ただし、この斑紋は成長するにつれて細かくなり、とくにオスは老成すると斑紋が消滅。黒褐色となり、口吻部が白くなる。この時期のオスは「クチジロ」と呼ばれ、磯釣り師の憧れの的となっている。一方、メスは老成しても斑紋は残り、また、口吻部も白くならない。
イシガキダイ得特の大小の黒い斑紋は、体側だけでなく、尾ビレ、背ビレ、顔などまで広がっている
【生態】
浅い海の岩礁やサンゴ礁に棲息しており、成魚は、海底の岩陰や洞窟に潜んだり、海底付近を泳ぎ回る。
食性は肉食性で、甲殻類、貝類、ウニ類などのベントス(底棲生物)などを捕食する。これらの動物の硬い殻も、くちばし状の頑丈な歯でかみ砕き、中身を食べてしまう。
成熟した個体は、春先から群れで南下して、南日本で産卵を行うことが知られている。稚魚は流れ藻や流木などに着いて外洋を漂流し、漂着物に着く小動物やプランクトンを捕食しながら成長する。全長数㎝程度から浅海の岩礁に定着するが、この時期には海岸のタイドプールで見られることもある。
成長は早く、1年で400~500g、3年で約1㎏になり成熟する。成魚は全長50㎝程度だが、80㎝を超える老成個体も確認されており、日本記録は長崎県の男女群島で釣れた88.5㎝(魚拓寸)だ。
【文化・歴史】
その昔、底物師たちはイシガキダイは小物であり、イシダイこそが大物だと思っていた。だが、1964年4月、高知県水島で怪物のようなイシダイが釣れたという報告が、当時、高松磯釣りクラブの会長であり、毎日新聞記者でもあった小西和人氏のもとへ入った。小西氏は、すぐに取材を敢行。怪物のようなそれを計測したところ、73.5㎝、二貫四百匁(9㎏)であったという。
当時の全日本磯釣連盟の記録は、二貫二百匁、全関西磯釣連盟の記録は、二貫七十匁であったため、これをイシダイの日本記録としてコラムに掲載した。
ところが、この大イシダイの口は白かったため、このクチジロイシダイの正体をめぐる論争が、日本の磯釣り界に沸き上がった。結果、環境や海流、その他の諸事情で模様や色の違いが出ているだけであるという見解がなされ、大論争の後、口が白いけれど石垣模様のあるものが釣れて、クチジロはイシガキダイの老成魚で斑紋が消えたものだということで決着がついた。
また、イシダイとイシガキダイは近縁種であるため、交配ができる。交雑個体は、イシダイとイシガキダイの中間型の形態を示すため、白と黒の縞模様と石垣模様とが入り混じることが特徴的だ。雑種であり、生殖能力はないとされる。
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