【分類・分布】
日本には3種類のスズキが棲息している。
1種目がスズキ。シーバスやマルスズキなどとも呼ばれ、釣りではもっとも一般的な種類である。
2種目がタイリクスズキ。もとは中国沿岸、台湾、朝鮮半島西岸に分布し、日本沿岸には分布していなかったが、養殖用に輸入された個体が逃げ出して野生化した外来種である。
そして3種目が本種。3種いずれもスズキ目スズキ科スズキ属に分類される。
房総半島および能登半島から屋久島までの沿岸、朝鮮半島南岸、済州島周辺に分布する。沖縄には棲息しないと考えられているが、ごくまれに釣りや漁などで捕獲されることがある。
【形態】
全長は最大で1mを超える。スズキによく似ているが、和名の通りに体高がより広く、平たい体型をしている。スズキと比べて吻がやや長い。また、尾ビレの付け根が太く、切れ込みも浅いこと、さらに、側線下方鱗や背鰭軟条数などで区別することができる。体色が銀白色に近く、頭に対して目が大きいこともヒラスズキの特徴のひとつだ。
よく、スズキとヒラスズキの違いは、下アゴにある鱗列といわれているが、スズキやタイリクスズキにもこのような鱗列のある個体が見つかっているため、分別するポイントとはいえない。
スズキに比べて体高があり、目がやや大きいヒラスズキ
【生態】
スズキよりもやや暖かい海域を好み、外洋に面した暖流の影響を受ける沿岸に棲息している。
ヒラスズキは、生理・生態など不明な部分が多い魚であるが、凪の日には水深30mほどの海底に群れるヒラスズキの大群が確認されたことがある。磯場に着くヒラスズキは、波が立ち、磯まわりにサラシができることによって、捕食のために沖合いの深場から上がってくるものと考えられている。
JGFA(ジャパンゲームフィッシュ協会)では、タグ&リリース(標識を打って再放流)による調査を積極的に行っている。その調査によると、外房・白浜の磯で2005年12月12日にリリースされた叉長52㎝のヒラスズキが、2007年1月10日、三重県熊野灘・贄浦の定置網で再捕された。そのときの叉長は61㎝だったことから、約1年1ヶ月で9㎝成長したことになる。外房でリリースされ、紀伊半島で再捕されたのは、これを含み2件。ほかに、駿河湾でリリースされ、紀伊半島で再捕された例も1件ある。このことから、太平洋沿岸のヒラスズキは黒潮に沿って、かなり広い範囲を移動している魚であることが明らかになりつつある。
スズキ同様、季節によってはカニの幼生や小型のイカを捕食するが、主なエサはイワシをはじめとした小型回遊魚だと考えられている。大型のヒラスズキの胃からは、30㎝もあるトビウオやダツが出てくることがある。また、磯場ばかりでなく、大雨のあとなどは河口にも入ってきてエサを捕食する。
【文化・歴史】
ヒラスズキは、200万年以上も前にスズキと共通の祖先から枝分かれして、高塩分域に棲めるように進化した魚である。
1957年以前は、スズキ科にはスズキの1種だけしかいないと考えられていたが、沿岸漁業者の間では2種類のスズキがいることが知られていた。魚市場の競りでは、値の高いスズキと安いスズキとに分けて扱われていたという。そんななか、魚類学者の片山正夫博士がこれらのスズキをくわしく調査したところ、漁業者の言うように2種類のスズキがいることが明らかになった。そして、1957年に新種のスズキをヒラスズキとして命名し、発表。これがヒラスズキの誕生である。
資源の絶対量が少なく、網でも偶発的にしか獲れなかったため、市場への入荷はほとんどなかったヒラスズキだが、近年増加の傾向にある。これは、ヒラスズキが養殖されていることや、海の温暖化の影響で漁獲量が増えているためと考えられる。
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