【分類・分布】
スズキ目フエフキダイ科フエフキダイ属の魚で、同じ科には、コケノコギリ属、ノコギリダイ属、フエフキダイ属、メイチダイ属、ヨコシマクロダイ属の5属39種が認められており、うち5属28種が日本に分布している。
フエフキダイ属の仲間には、アマミフエフキ、キツネフエフキ、タテシマフエフキ、ヨコシマフエフキなど28種が知られている。そのほとんどは太平洋西部~インド洋の熱帯域に分布し、沿岸の浅い海で生活している。
日本列島では千葉県以南、とくに沖縄に多く棲息しており「タマン」の名で親しまれている。
【形態】
フエフキダイ属の魚は、その名が示す通り笛を吹くのに口先を突き出したような独特の顔つきが特徴。また、稚魚期の一時期を除いて、主鰓蓋(さいがい)骨よりも前の部分にはウロコが一切ない。
ハマフエフキは、全長は最大で90㎝に達する大型種。体型はタイに似て側扁し、比較的体高が広い。口内は鮮やかな朱色で、両アゴ前部には2対の犬歯がある。エラブタは短くて太く、低いこぶ状。
体側は赤褐色の地色に、ウロコ一枚一枚に淡青色の輝きが含まれる。英名では「Spangled emperor」といい、「スパンコールをまとった、星をちりばめた皇帝」という意味。その名にふさわしい優美さがある。
眼下の頬や吻(ふん)に淡青色斜走線が数本あるほか、胸ビレにも淡いブルー斑がある。また、胸ビレの上縁と腹ビレ前縁は淡青色となっている。
キツネフエフキ、タテシマフエフキ、ヨコシマフエフキなどもいずれも口先が突き出ており、黄褐色から赤褐色の体色で似通っている。
名称が似ているためフエダイ科の魚と混同されやすいが、フエダイ科に属する魚は頭部にウロコが多いことや口の中が赤くないことなどことから区別できる。
沿岸部の岩礁、砂礫底、サンゴ礁域などから水深70m以深まで広く棲息している
【生態】
沿岸の岩礁や砂礫底、サンゴ礁域などのごく浅いところから、水深70m以深の深みまでに棲息している。食性は肉食性で、稚魚期は海藻に着く微小甲殻類などを、成魚は小魚・甲殻類・イカ・貝類・ウニなどを捕食する。
沖縄における産卵期は2~11月と長く、春と秋の2回の盛期が認められている。稚魚は尾叉長17㎜を超えた頃から、海藻が繁茂する水深3m以浅の浅海域に着底。その後、成長に伴って沖の砂礫底に分布域を移し、成長とともにさらに沖の深みに移動し、越冬する。成熟するのは3~4歳。雌性先熟の性転換が見られ、寿命は20年を超えるといわれている。
琉球諸島や小笠原諸島では体長50㎝以下の個体がよく見られるが、四国・九州では、70~80㎝の大型が多い。このことから、琉球諸島などが主分布域であり、大型になると南日本の太平洋沿岸を回遊してくると推測できるが、くわしい生態については解明されていない部分が多いのが現状である。
【文化・歴史】
ハマフエフキという名は、日本の魚類を体系的にまとめながら初めて標準和名を付けたジョルダン・田中・スナイダーによる『日本産魚目録』(1913年)の中にも登場しており、古い名前であることがうかがえるが、その由来については不明である。
関東ではなじみが薄いが、沖縄地方では「タマン」という名で親しまれており、グルクン(タカサゴ)と最後まで県魚の地位を争ったといわれるほどポピュラーな魚である。また、県内では重要魚種の一種とされ、1976年から種苗生産研究が、そして1984年から人工種苗放流技術開発の調査研究が行われてきた。
九州・関西地方では「タマミ」と呼ばれることが多く、ほかに「タマメ」「タバミ」「タバメ」という呼び名もある。次いで多いのが「クチビ」「クチミ」という呼び名だ。口の中が赤いため、「口緋」もしくは「口火」の意味であると推測される。
本種は「フエフキダイ」、もしくは、省略して「フエフキ」と呼ばれることも多い。しかしながら標準和名のフエフキダイはハマフエフキとは別種であり、全長は最大で40㎝ほどにしかならない小型のフエフキダイ科の魚である。フエフキダイは、生態や生活史がほとんど解明されてない謎の魚であり、なかなか目にすることができないのだが、本種との混乱がしばしば見られる。一番多い混乱は、沖縄の「タマン」がハマフエフキで、九州や関西地方の「タマミ」がフエフキダイだと思われていることである。また、魚図鑑などでも両種の混乱が見られるので注意が必要だ。
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