【分類・分布】
エビ目ワタリガニ科ガザミ属に分類され、一般には「ワタリガニ」という名でよく知られている。ガザミの仲間は多く、国内ではほかにタイワンガザミ、ノコギリガザミ、ジャノメガザミなども見られる。
本種は、函館以南の北海道から九州、南西諸島まで分布。タイワンガザミは南方系のカニで、太平洋側では千葉県、日本海側では山形県以南の本州から九州、南西諸島に見られる。ノコギリガザミも本州中部以南に棲息し、とくに浜名湖や土佐湾、南西諸島に多い。
【形態】
甲羅の形状は横長で、菱形に近い六角形をしている。また、甲羅の額縁には短い棘が3本あり、左右には鋭い棘が突き出している。よく似たタイワンガザミの額の棘は4本である。また、釣り人の間で同じくワタリガニとも呼ばれるイシガニは、本種よりも丸みを帯びた甲羅をもち、左右の棘も目立たないことから区別できる。
背面は緑褐色で、甲羅の後半部や脚などには青みがかかり、白色の水玉模様が点在する。
タイワンガザミは、雄の体色が全体的に紫がかった青みを帯びていることから区別できるが、雌は本種と似た体色である。
ノコギリガザミの甲羅は楕円形に近く、背面が褐色、腹面が明褐色となっている(本種の腹面は白色)。また、甲羅の額部分にノコギリのような歯が付くことがノコギリガザミの特徴である。
鋏脚(きょうきゃく)にはたくさんの棘があり、鋏(はさみ)部分は赤褐色となっている。第1歩脚~第3歩脚は普通のカニと似たような形状だが、第4脚はその先端部分がダイビング用の足ヒレのように平たく変形していることも、ワタリガニ科の仲間の大きな特徴である。この脚は「遊泳脚」と呼ばれ、海中を自由に素早く泳ぐために非常に役に立っている。なお、本種の鋏脚の長い節には小さな突起が4本あるが、タイワンガザミは3本である。
本種の雄と雌の見分け方だが、雄は体色の青みが強く、俗にフンドシと呼ばれる腹蓋の幅が狭い。雌は腹蓋(はらぶた)の幅が広くて丸みを帯びている。
比較的大型に成長し、甲羅幅が最大で20㎝、左右の脚を伸ばした状態では30㎝を超えるものが釣られることもある。ノコギリガザミはさらに大型で、甲幅は25㎝以上にも達する。
【生態】
ガザミの棲息水温は7~35℃で、高水温期は沿岸域や水深30mほどまでの内湾の砂泥底に棲息する。水温が14~15℃まで低下すると、捕食活動を停止して砂の中に潜って冬眠。翌春、水温が10℃程度に上昇する頃に再び活動を開始する。
主に小魚や貝類、底棲生物などを好む肉食性。また、タコやエイなどの外敵が近づいてくると、遊泳脚を使って素早く泳ぎ去る。
交尾期は秋。雄が雌の体内に精子の入ったカプセルを送り込むと、半年以上もの期間、雌の体内で保管される。産卵は初夏~夏の夜間に、内湾の水深10~30mほどの藻場周辺で行われる。一度の産卵数は80~450万粒で、産卵時に受精する。
受精した卵は雌の腹部内の内肢に付着して卵塊となり、20℃前後の水温なら2~3週間ほどで孵化する。孵化直後の幼生はゾエアと呼ばれ、数回の脱皮を経て約1週間で稚ガニに変態する。その後、成長に伴って軟泥底から砂泥底へと棲息場所を変え、丸1年で成熟する。寿命は約2年とされる。
【文化・歴史】
ガザミとはカニのハサミの略語で、ハサミを意味するカサメの転訛ともいわれる。また、ガザミは月夜に群れをなして泳ぐ習性から「月夜ガニ」、あるいはその甲羅の形から「菱ガニ」などとも呼ばれる。
美味なカニで、古くから食用としてされていた歴史がある。江戸時代の食物書である『本朝食鑑』にも、ガザミのおいしさを解説する記述が認められるが、弥生時代にはすでに食されていたともされている。
現在では全国各地に産地があり、種苗放流が盛んに行われているエリアも多い。
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