【分類・分布】
ブダイが属するブダイ科には10属88種が記録されており、これらブダイ科の魚類は大西洋、インド洋、太平洋など、世界中の熱帯・亜熱帯域に広く分布している。本種はブダイ科のうち、タイワンブダイ、チビブダイなどと共にブダイ属に属する。
本種の日本列島近海での棲息域は本州中部以南の沿岸で、とくに南日本と伊豆諸島に多く見られる。また、東シナ海、朝鮮半島、インド洋などにも分布している。
【形態】
成魚の全長は平均して30~40㎝。最大で60㎝程度まで成長する。鮮やかな青色の近似種、アオブダイが最大80㎝ほどにまで成長するのに比べると小型だ。
体型はタイのように体高があり、側扁している。ウロコはとても大きく柔らかい円鱗で、体側のほかに頬にもウロコがある。側線鱗は23枚前後。側線は体の背縁寄りに走り、尾柄の前端あたりで急激に側中線を通る。尾ビレの後縁は緩やかに曲がり、遊泳力は弱い。
体色は背部が褐色で、腹部は淡黄色。オスは全体的に青みがかっているが、幼魚とメスは赤みが強い。生態的な特徴として性転換することが知られているが、性転換してオスになった二次雄は、体色が緑がかり、頬部に不規則な赤斑紋ができる。
アゴの歯は強く、喉にも頑丈な歯がある。ブダイ科の魚は、歯が癒合し、クチバシのような歯板を形成する種が多いが、本種の癒合は不完全であり、歯板にならないのが特徴。また、ブダイの歯は折れたり欠けたりすると、新しい歯がせり上がってくる。エビやカニなど硬いものをかみ割って食べるのに都合のよい仕組みだ。
硬いエビやカニなどを食べるのに適した頑丈な葉をもつ口。食性は季節によって変わる。
【生態】
ブダイは1匹のオスを中心にハーレムをつくるが、このオスがいなくなると、もっとも大きいメスがすみやかに性転換をしてオスになる。また、多くのベラの仲間と同様に昼行性で、日中は活発に捕食活動をするが、日が暮れると海底の岩陰やサンゴ礁の切れ目などで休む。水温15~23℃の間で活発に捕食するといわれているが、泳ぎは達者ではなく動作はやや緩慢である。
食性は雑食で、冬の低水温時には海藻類を主食とするが、夏の高水温時にはエビやカニなどの動物質のエサを主食とする。食性が変化するきっかけとなる水温は、18℃くらいであるとみられている。エビやカニなどを捕食する場合は、独特な丈夫な歯を使ってバリバリとかみ砕くようにして捕食するが、海藻類の場合は、はみ取るようにして食べる。また、造礁サンゴを食べることでも知られている。サンゴ片のように消化できないものは、かみ砕いた後に口の外に吐き出す。
1年で全長14㎝、2年で23㎝、3年で29㎝、4年で33㎝、5年で36㎝に成長し、最高年齢は8歳。すべての個体が2歳で成熟し、5~9月に産卵期を迎える。産卵は、沖合の流れのある場所に数百匹のメスが集まり、その近くでオスが縄張りを張る。そして、満潮を過ぎるとつぎつぎに産卵をする。
熟卵は直径が0.6㎜と非常に小さい球形で、25℃の水温では24時間以内に孵化。孵化後の仔魚も小さく、全長は1.6㎜ほどである。
【文化・歴史】
ブダイという名前の語源には諸説あり、さまざまな漢字が当てられる。大きなウロコに覆われた姿が、武士が戦で着る鎧のように見えることから「武鯛」。ひらひらと舞うような泳ぎ方をすることから「舞鯛」。不器量な姿をしていることから「不鯛」。また、日本で系統的に初めて標準和名を提唱した田中茂穂は、「部鯛」と記している。
地方名もじつに多彩で、和歌山、関西、九州・宮崎では「イガミ」「イガメ」「エガメ」などと呼ばれるのだが、これは密生した歯が口からはみ出し、怒ったような顔に見えることから、動物が牙をむいて争う様をいう「啀(いがむ)」という言葉が転訛したものだといわれている。
九州地方では、藻を好んで食べることから「ミハミ」「モハン」などと呼ばれている。その他、アカエラブチャー、アカブダイ、イソダイ、オオガン、フダイ、トネ、モハンなどがある。ちなみに、英名のparrotfishは、歯がオウム(=parrot)のクチバシに似ていることから付けられた名前である。
ブダイは冬が旬であるため、俳句などの季題になることもある。その際は「舞鯛」という名が用いられることが多い。貝塚から咽頭骨が出土するなど、ブダイは古代から利用されていたとみられており、江戸時代の外科医である武井周作著の『魚鑑』にも本種についての記述がある。
伊豆諸島沿岸では、刺し網などにより漁獲されているが、そのほとんどが地元で消費され、市場にはほとんど出回らない。伊豆大島では、冬の西風が吹くとブダイの開きが軒先で寒風にさらされ、干物に加工される。体色が鮮やかなブダイの寒干しは、島の冬の風物詩だ。紀南地方では正月料理として食す習慣があり、ブダイの煮付けは地域の名物料理となっている。
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