【分類・分布】
世界中の熱帯、温帯に広く分布する魚で、日本でも北海道以南で一般的に見られる。
ボラ目ボラ科ボラ属に分類される。
ボラ科の魚は2亜科17属70種以上が知られており、大半は沿岸性の海水魚だが、一部淡水性の種類もいる。日本近海には本種のほかにメナダ、セスジボラ、フウライボラ、コボラ、オニボラ、ナンヨウボラなどがいる。とくにメナダは全国的に分布するために、本種と一緒に水揚げされることもあるが、メナダは比較的寒冷な海を好み、ボラは暖海を好むとされる。
【形態】
体形は細長く、断面は頭側が逆三角形、尾に近い部分は紡錘形となっている。体色は、背中側が青灰色、体側から腹部は銀白色。胸ビレの基部は濃青色になっており、体側には不明瞭な細い縦縞が数本ある。
鼻先は平べったく、口はやや小さくて上顎が伸縮するようになっている。目は脂瞼(しけん)というレンズ状の器官で覆われており、冬にはとくに脂瞼の周囲に脂肪がつき、白濁した状態になる。
背ビレは2基あり、第1背ビレには棘条が発達し、そのうち前3条が基部でほぼ接しているのが特徴。尾ビレは中央がくびれており、体に対して比較的大きい。なお、ボラ科の魚には側線はないが、鱗の一枚一枚に小さな孔があり、そこで水流などを敏感に感じているとされる。
本種によく似たメナダは、脂瞼があまり発達していないないこと、目や唇に赤みがあること、尾ビレ中央があまり切れ込んでいないことなどで区別することができる。
【生態】
沿岸部の浅場、河口や内湾の汽水域に多く棲息する。水の汚染に強く、都市部の港湾や川でも普通に見ることができる。体長が同じくらいの個体同士で群遊し、ときには海面上に大きくジャンプする。ジャンプの理由はまだわかっていないが、水中の酸素欠乏、物音に驚いて外敵から逃げるため、体に付いた寄生虫を落とすため、など諸説ある。
食性は雑食で、底に積もった泥中のデトリタス(生物の死骸や排泄物などを起源とする微細な有機物粒子)、付着藻類などが主なエサとなる。細かい歯の生えた上アゴを伸縮させて平らな下アゴで受け取るようにして、泥ごと口内に取り込む。ボラの胃の幽門部は丈夫な筋肉層が発達して、俗に「へそ」と呼ばれているが、これはこの泥混じりのエサをうまく消化するために発達した器官である。
産卵期は10~1月頃とされ、4歳前後の成熟したボラは産卵期になると外洋へ出て南方へ回遊する。そのルートや産卵場所、産卵の詳細ははっきりとは解明されていないが、薩南諸島周辺を含めた南方の海域が産卵場所だと考えられている。
卵は直径約1㎜の分離浮性卵で、産卵数は約200万粒ほど。卵は数日で孵化し、春頃3~6㎝に成長すると再び沿岸域へ戻ってくる。体長は1年で20㎝、2年で30㎝、3年で40㎝となり成熟する。最大で80㎝以上に達する。
同じくらいのサイズのボラが大きな群れで回遊する。河口や汽水域でもよく見られる
【文化・歴史】
ボラの名の語源については、太い腹という意味の「ほばら」が転じたものとも、ボラの姿形が角笛に似ていることから中国の言葉で角笛を表す「ハラ」が転じたものともいわれている。
成長するに従って呼び名が変わる出世魚で、出世や成長につながるということから、正月や子供のお食い初めの祝い魚として用いて、高級魚扱いする地域もある。
呼び名、およびその順番は多少異なることもあるが、関東ではオボコ・イナッコ・スバシリ・イナ・ボラ・トド、関西ではハク・オボコ・スバシリ・イナ・ボラ・トド、東北地方ではコツブラ・ツボ・ミョウゲチ・ボラなどと呼ばれる。
「とどのつまり」という言葉は、ボラがこれ以上大きくならないトドからきたもの。また、幼子を「おぼこい」というが、これもボラの幼魚・オボコが語源だ。そして、粋な若者のことを「いなせ」と形容するが、江戸時代の魚河岸の若者がイナの背ビレのように髷を結ったことから、また頭頂部をイナのように青く剃り上げた様子が由来とされる。
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