【分類・分布】
アマダイは、スズキ目アマダイ科の海水魚の総称。漢字で書くと「甘鯛」または「尼鯛」だが、タイ科ではなく、いわゆる「あやかり鯛」(形が似ている、体色が赤いなどの理由で、魚の王様・マダイの名を借りた魚のこと)のひとつである。
世界中に3属28種が分布しており、主にインド太平洋の大陸棚を中心に棲息する底棲肉食魚。
日本では、1属5種が棲息していて、このうちアカアマダイ(Branchiostegus japonicus)、シロアマダイ(Branchiostegus albus)、キアマダイ(Branchiostegus argentatus)の3種が重要な食用種となっている。
アカアマダイは体色の赤みが強く、眼のすぐ後ろにくさび形の銀白色の斑紋があり、シロアマダイはその名の通り体が白っぽく「シラカワ」とも呼ばれている。また、キアマダイは背ビレ、尾ビレの黄みが強く、目の下縁から上アゴに走る銀白線があるのが特徴だ。3種のなかでもっとも漁獲量が多く、釣りの主要な対象魚となっているものの大半はアカアマダイである。主に太平洋側では房総半島から九州、日本海側では青森から九州に分布。
【形態】
体は前後に細長く側扁し、頭部は、額とアゴが角ばった方形。そのユニークな頭の形から、古書では「屈頭魚(くずな)」と呼ばれ、関西では、これが訛ってクジ、あるいはグジになったといわれている。中国では「馬頭魚(まーたう)」、英語でもやはり「Horsehead(=馬の頭) tilefish」といわれている。
アカアマダイは彩りがとても美しい魚。背ビレ近くの濃い赤が、銀白色の腹に向かってグラデーションとなり、眼の下は鮮やかな黄色。エラの下、腹ビレ付近にも黄色が配され、ヒレの一部がコバルトブルーに輝く。
美しい赤い体色と額とアゴが角張った特徴的な形の魚。関西ではクジ・グジという名のほうがポピュラーだ
【生態】
アカアマダイは、水深30~150mの岩礁混じりの砂泥底に巣穴を作る習性があり、体を潜らせるようにして棲んでいる。巣穴は海底に一様に分布しているのではなく、いくつもの巣穴がかたまって集団を作り、巣穴の集団の範囲は直径200m前後になる。
強い縄張り意識をもっており、縄張りに入ってきたほかのアカアマダイには体当たりをして追い払うといわれている。また、近年の調査で、昼間は巣穴から出てもごく近くで捕食行動し、夜になると巣穴に潜るというように、巣穴を中心とした生活を送っていることが明らかになってきている。
産卵期は9~12月で、水深70~100mの海底で産卵する。孵化後の稚魚は眼の大きいタイ型で、しばらくの間、水深10~50mの層を浮遊する。全長3㎜の大きさになると突起や微小棘が消失し、3㎝ほどに成長するころにはアマダイ型になって海底に下り、底棲生活へと入る。体長は1年で17㎝、2年で22㎝、3年で25㎝、4年で30㎝、最大で60㎝あまりに成長する。
食性は肉食性で、海底のシャコ、エビ、カニ類、貝類、ヒトデ、ゴカイ類などを捕食する。
本種は成長の時期によってオス、メスの数の割合が違い、25㎝以下の個体にはメスが多く、大きくなるにつれて次第にオスが増え、成長しきった30㎝以上の大型のものはすべてオスである。このことから、クロダイなどのように性転換する魚だと考えられている。
【文化・歴史】
多くの別名をもっているアカアマダイ。上記のクジ・グジのほか、島根県では「コビル」と呼ばれている。コビルとは、アカアマダイが「タイ」と名前のつくほかの魚に比べて大きくならないことから付いた呼び名だ。また、古書には、「屈頭魚(くずな)」と書かれており、独特の角ばった頭の形からこう呼ばれるようになったといわれている。
別名でもっとも有名なものに、「オキツダイ」がある。これは、美食家としても知られる徳川家康の奥女中に、興津局(おきつのつぼね)という方がおり、里帰りの土産にアカアマダイの生干しを家康に献上。それをいたく気に入った家康が、「この魚を、これからは興津鯛と呼ぶがよい」といったことから名付けられた。
全国の産地で、特産品ブランド化する動きが盛んだが、昔からアカアマダイの名産地として名高い若狭湾もそのひとつ。若狭で穫れたアマダイが京の都に運ばれ、京料理と出会い、高級食材「若狭クジ」として広く知られるようになったという歴史がある。
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